d&bとsavvy。タングルウッドで森林を感じる
毎夏、ボストン交響楽団はボストンからマサチューセッツの西側にあるタングルウッドと呼ばれる地へ活動拠点を移すべきかもしれません。何となく神話的な響きを持つタングルウッドという名前は、ナサニエル・ホーソーンが子ども向けの本「Tanglewood Tales(邦訳:タングルウッド物語)」を書いたコッテージにちなんでつけられたものです。タングルウッドは神秘的であると同時に魅惑的です。クーセヴィツキー、ジャズフェスティバル、ボストンポップと小澤 征爾という言葉がミックスされ、タングルウッドとは文化の混乱も意味します。ふざけているように感じますか?そうかもしれません。しかし、タングルウッドが何であるかを見極めようとすれば、すぐに何か新しいものが登場します。少なくとも、夏のアウトドアシーズンは誰にでも活力を与えてくれます。タングルウッドのサウンド責任者を務めるDr. Douglas McKinnie氏は、クーセヴィツキーホールを手掛けてきました。これは25年以上にもわたってこの地で重要な役割を果たしています。「私は学生の頃、実習生としてここで働き始めた。私が手掛けてきた良好な質の音楽は、それ以来、夏シーズンになくてはならないものとなっている」と彼は述べています。これはまさに事実です。
「タングルウッド円形競技場、クーセヴィツキー・シェッドは1938年にオープンした。1959年にはBB&N社を通じてLeo Beranekが音響設備を改良した。ホールの音響はこれまで私が訪れた多くの現代的ホールを上回っている。誰もが知っている『シェッド』はアメリカで最も古い野外音楽堂の一つだ。およそ9メートルにもわたって垂直に開いた構造となっており、大きく包囲された空間が上部にある」と彼は述べています。側面の開いたテントは、5000名分の座席エリアを覆っています。その後に建てられたシェッドでは草で覆われた急な土手が設置されているのに対し、クーセヴィツキー・シェッドにはさらに15000人の観衆がコンサートを楽しめる平坦な芝生があります。「ここには数秒間の残響が存在し、野外音楽堂のいたるところで反射音がある。これはオーケストラや特にオペラには最適だが拡声には向いていない。」
しかし、拡声はほぼ初めから必要だとDr. McKinnie氏は説明します。「ここではボストン交響楽団の演奏が週に3回ほどある。演奏に入る前には大抵スピーチを主とするイベント、つまりパネルディスカッションや音楽レクチャーなどがある。数秒間の残響がある中、7個か8個のマイクをステージ上で使用するとなると問題が生じる。我々は1年以上にもわたってこの問題を指摘してきた。主催者側からは『少しのスピーチ用拡声器だけのためになぜ大掛かりなPAシステムが必要となるのか』との声が聞かされた。これは指向性の問題だ。定期的にレクチャーホールで発表する音楽研究家がいた。彼は主に2人のスピーカーだけを起用していたが、ある時、『私がこのシェッドに来て発表する時のサウンドはなぜこんなに悪いんだ?』と聞いてきた。このため、主催者に話を聞いてもらえる影響力のある人物を通して我々はポイントソースを拡大させる解決策を提案して説得しようとした。SAVI の場で私はMike Weirich氏とJohn Geritz氏に接触し、拡声技術についての知識がない者としての立場から彼に『このような発表に2人のスピーカーを起用し、このホール内での明瞭度を高めたいとしたら、あなたならどうするか?』と聞いてみた。JohnはC4/C7 d&b audiotechnikラウドスピーカーのローリングスタック2基を紹介した。そして、これをスピーチイベント用ポータブルシステムとして1シーズンの間試してみた。ここでは大きな改善がみられた。その後、フライングシステムやこの会場のニーズにより沿ったものとするための開発案を含む論理的な詰めが行なわれた。」
「とは言うものの、ジレンマはあった。これらのスピーチイベントでは聴衆が50パーセントにしか達しないことが多い。つまり、多くの場合には聴衆がステージに近い位置に座ることになるが、後ろの座席に座る聴衆の数も少なくはない。しかし、会場が聴衆で一杯となればディレイが必要となる。つまり、聴衆が半分しか入っていない場合にディレイをオンにしたままにすると明瞭度が低下してしまい、ディレイをオフにすると、離れた位置に座っている人々には聞こえなくなってしまうというジレンマが生じるのだ。このような問題を解消するのがより大掛かりなシステムだろう。そうすればこれをほぼ常時使用したままにすることができるだろう。我々はこのシナリオを数年間試してみた。ここではSAVI の大きな助けを借りることができた。我々は先端技術を活用し、夏シーズンを通してイベントごとに様々な異なるシステムをレンタルして実験してみた。その中、使用した誰もが気に入ったシステムがあった。これがd&b J-Seriesのラインアレイだ。ここでの最も大きなメリットは、私がすでに指摘していたディレイの低減にあった。これによって旧式のハウスシステムにおけるディレイを一掃することができるようになっただけでなく、J-Seriesによって座席全域へのサウンド供給が可能となったのだ。もちろん、場所によってはディレイが必要な領域もあった。しかし、これらの領域に対しては縁から数メートルの天井部に点在するd&b Q7によってより局部的かつ直接に対応することができた。このように適切な解決策をとることができ、我々は非常に喜んでいる。」
前述のとおり、これはボストン交響楽団やその音響責任者であるSteve Colby氏だけの問題ではなく、多くの問題が絡み合っていた例です。最終的に設置されたシステムの設計には、彼が積んできた多くの経験が貢献しています。BSOでのサウンドエンジニア責任者として、そしてタングルウッド外で行なっているボストンポップス活動、そしてタングルウッドのシェッドシステムにおける夏シーズン中の様々なボストンポップスイベント、そして小澤ホールで行なわれているジャズフェスティバルなど、彼は彼の35年以上にもわたって様々な領域で経験を積んできました。「ジャズフェスティバルのハウスエンジニアとして私が最も喜んでいることは、演奏者に指向性の高いロケーションを提供できる優れた均等なカバレージにある」とColby氏は述べています。「ボーカルレンジのクロスオーバーポイントを通じたスムーズな変換、そして特性を簡単にチューニングできるPA、さらにアンプ内にインストールされているツール・・・。これらこそが、d&bシステムが両方の会場に理想的だと考える理由だ。」
「クーセヴィツキーと同じく、小澤ホールでもこの暫定システムを導入する」とWeirich氏は述べています。「ここでも我々はC-Seriesを使用した。拡声用の余地は狭く、正直言ってC-Seriesは物理的にも大きすぎたが、d&b社がQ-Seriesを開発した際に、システム設計に再び取り組むチャンスが再来した。Dr. McKinnie氏が言ったとおり、タングルウッドは悩みの種となっており、我が社のシステムエンジニアであるDave Harris氏は小澤ホールのシステムを自らの力で設計した。これは横座席のそれぞれのレベルでQ7ラウドスピーカーを使用したこのシステムは小さいが複雑な設計となっている。8個のQ1がメインホールの深い位置に使用されており、Q7がリア部分に、そしてさらにQ1とQ-SUBのタワーが芝生上に設計されている。」
「SAVI はタングルウッドにおけるシーズン毎の音響ニーズに対応する、頼りになる業者となった」とColby氏は述べています。「彼らの助けを得ながら、私は年間通して多くのプロジェクトを手掛けることができた。ここには、私がデザイナーとして行なった大規模な設置プロジェクトやBSO向けの”最新のPAプロジェクト”も含まれている。これらは、より大規模なアリーナや屋外パフォーマンスにおけるボストンポップス・ツアー活動で大きな成果が表れた例だ。つまり、d&b は上質のスピーカーと言える。」そして、タングルウッドはこの夏、75周年を迎えます。