HAPPINESS ARENAにd&bシステムを導入
2024年10月サッカースタジアム・アリーナ・ホテル・商業施設・オフィスを備えた大型複合施設「長崎スタジアムシティ」が誕生。史上最速でB1昇格を決めたバスケットボールクラブ「長崎ヴェルカ」の新ホームアリーナHAPPINESS ARENAにd&bシステムが導入されています。今回は建設を統括していた株式会社長崎ヴェルカの谷本貴信様と、現場の音響設備担当者である株式会社ステージング・ナガサキの雑賀慎吾様にお話を伺いました。(2025年2月)
-開業後5ヶ月、現在の状況についてお聞かせ頂けますか?
谷本:長崎スタジアムシティは「街中に開かれた空間」をテーマにした地域創生プロジェクトです。サッカーやバスケの試合、コンサート等のイベント時には多くのお客さんが集まり、チケットはほぼ完売するものも多くございます。イベントのない日でも毎日平均して1万人前後のお客様が訪れて賑わっています。
-長崎スタジアムシティのプロジェクトを進めていくうえで、重視されたことはなんですか?
谷本:コストを抑えられるところは抑えつつ、運用のしやすさとお客様にとって最適な環境づくりを重視しました。HAPPINESS ARENAのコンコースはボード素地のままですが、壁を張る代わりに優れた機材を導入し、感動を提供することを優先しました。お客様が再び訪れたくなる楽しい空間づくりを第一に考えています。また、建設がゴールではなく、進化の余地を残すことも大切だと思っています。例えば、チームがリーグ優勝したら新設備を追加する…など、柔軟な設計を採用しました。時代の変化に合わせて、常にお客様に新しい体験を提供できるような環境を作りたいんですよね。
-今回はどのような経緯で高品質な音響環境を追求することになったのでしょうか?
谷本:民設民営として、バスケットボールの試合やイベント以外での活用を構想段階から考えていました。特に音響環境はバスケットボールだけでなくアーティストにとっても重要で、質が低ければ施設の利用機会が減る懸念がありました。できる限り費用を抑えることは重要ですが、コストを優先した結果、使われない建物になっては意味がありません。また、九州の都市部を離れると高品質な機材のレンタルが難しいため、「長崎に来れば最高の音響環境がある」ことを施設の魅力にしたいと考えました。そのため、建築設計や音響機材の選定には一切妥協せず、徹底的にこだわりました。
-音響の要件を重視するうえで、弊社を選んでいただいた理由は何でしょうか?
谷本:日本や海外の先端事例を調べていくと、d&bのプレゼンスが際立っていました。外部利用も考慮し、有識者の意見を取り入れた結果、単純にコスト優先で機材を選定できないことを理解しました。
私たちは建物自体に設備を備えることで、誰が来ても高品質な音響環境を提供できる設計を目指していたので貸し出しやすく、高い品質を維持できるd&bを選定することにしました。また、事業者発注の形をとり、意思決定を事業者側で行う体制にしたことで、慎重に選定を進めることができました。ゼネコン・d&b・我々のチームがうまく連携できたのも非常によかったです。
雑賀:私は選定には関わっていませんが、「どのようにお客様に音を届けるか」を考え抜いた上で、最大限のパフォーマンスを発揮できる最新設備が導入されているのは素晴らしいことだと思います。
-B1リーグの試合やコンサートでの使用感はいかがでしょうか?
谷本:試合を盛り上げるにあたり、音響は欠かせない要素です。試合前後のエンターテイメントを考える上で、音は空間を演出し観客の気持ちを高める重要な役割を担っていると思います。長崎に今までなかったような非日常的な空間を創り出すことができたと思っています。実際、とあるオペレーターさんから「日本のアリーナで一番音が良い」というお褒めの言葉をいただくほど、KSLラインアレイスピーカーを使用したイベントの評判は非常に高いです。試合中は観客の歓声や競技の音でMCの伝える内容が聞き取りづらいという問題がこれまで慢性的にありました。HAPPINESS ARENAではこの問題が解消され、空間として様々なことがやりやすくなっています。音響が優れているため、大きな音を出すことで観客の熱気を高め、総合的な演出に繋がっていると思います。
谷本:また、常設スピーカーと乗り込みのスピーカーの位置が干渉するなど、現場では様々な課題が発生すると思いますが、HAPPINESS ARENAでは館側で機材を所有しているため、大がかりな取り外し作業が不要です。デフォルト設計でバスケットボールの試合ができ、コンサート時にはステージ側にサイドフィルを追加するだけで済みます。その結果、オペレーション時の設備設置費を抑えつつ、常に高品質な音響環境が提供できています。スピーカーの機構も工夫しているため、状況に応じてすぐに調整が可能です。例えば、観客向けの音量を上げつつ、試合中の選手には音を控えめにするなど、状況に応じ柔軟にチューニングできる点も良いです。
雑賀:今回初めてアリーナの設備運営に携わることになりましたが、私はもともとd&bユーザーだったので、スムーズに馴染めました。機材選定後、打合せに入らせて頂き、実際に使用する立場としての意見を着工前に聞いてもらえたのは非常によかったです。一般的に公共ホールでは着工前に私のようなユーザーの意見をくみ取る機会は少なく、工事が始まってから色々気づくことがあって可能な範囲で対応するケースが多いものです。今回は着工前に、オペレーションのしやすさや理想の環境について話し合うことができ、それが活かされたのは良かったです。
-音響設備を導入したことで、今後何か期待することはありますか?
谷本:今後も多くのアリーナ施設が建設されると思いますが、音漏れ対策には多くの費用がかかります。良い音響機材を導入するにあたって、建物自体の対策が不要になるとお客様にとってもより良い環境が提供できると思います。 また、今回のように事業者とメーカーが直接話し合い、専門的なサポートを受けられる環境の重要性も実感しました。音のアウトプットに関する建築上の仕様には様々な解釈があり、今回多くを学びました。ありがとうございます。
雑賀:実際に動き出してから見えてくるものも当然あるので、竣工後に気づくこともいくつかありますが、事前に意見交換ができたので良い形でスタートを切ることができたと思います。表現者としてさまざまな演目を実現していきたいので、今後多くの公演がこのアリーナで開催されることを期待しています。
株式会社 長崎ヴェルカ 取締役 谷本貴信 様
2019年2月に長崎スタジアムシティプロジェクトのためにジャパネットグループに入社。基本構想から建築フェーズ、開業まで全ての段階を担当。スタジアムとアリーナの建設、各メーカーとの調整業務を七年間にわたり行う。開業後、2024年11月に長崎ヴェルカへ移籍。
株式会社 ステージング・ナガサキ Sound Manager 雑賀慎吾 様
HAPPINESS ARENAのサウンドマネージャーとして、現場の音響設備の運用を担当。