d&bによる伸ばした三角形の布のサウンド再生。
ミュンヘンオリンピックスタジアムが1974年の開設時には、ピラミッド以来最も素晴らしい建築物の一つとして大変歓迎されました。建築家 Günther Behnisch とエンジニアの Frei Ottoは、オリンピックパークの会場がベドウィン族のテントのように覆うことを計画していました。そのテントと唯一違うところは、布地の代わりにベドウィンの祖先たちのようにしなやかでぴんと張られたガラス板を選択したことです。この革新的で永続性のある技法は、今でも 新Reichstag 、ユーロスター鉄道のターミナル駅Waterloo 等、その他でも多く見ることが出来ます。ぴんと張られたガラスの天蓋は、今でこそ珍しくありませんが、1974年当時では革新的なものでした。 このような革新的な建築の歴史は、2006 World Cupオープニングセレモニーの企画・運営を委託された Neumann & Mueller 社の音響設計者としての精神を刺激しました。この計画の中心は誠に単純で、一つの舞台上で3つのオーケストラが演奏できることでした。オーケストラ1と3が舞台前部に並列して、オーケストラ2が高い舞台に、そして舞台の中心部を占める聖歌隊によって増強させる考え方でした。 「その要求は明らかでした。」 d&b audiotechnikアプリケーションサポートのRalf Zuleegが説明しました。「第一にオーケストラのイベントでありながら、例えばPlacido Domingoや Lang Langのようなポップ、オペラ、そしてピアノの各ジャンルまでに対応する性能が求められました。そして、そのレベルも2万8,000人の観客が心地よく聴こえる必要がありました。この要素を達成することは、分散ディレイシステムを使用すればそれほど難しいことではありません。第二に舞台のメインシステムは、左/中/右に分割構成する必要がありましたので、ディレイタイムを慎重に調整してどのオーケストラが演奏しているかが分かるように音像を合わせる必要がありました。」 このセットアップのためには解決方法を考慮する必要がありましたが、 30年前にグランドスタンドをテンションによって引っ張られるガラスで覆うという革新的なアイデアと比べた場合、より難しい課題だったのでしょうか?「いいえ、それほどのことではありませんでしたが、3つのオーケストラがStraussの名曲「ツァラトゥストラはかく語りき」を完全な和音ごとに舞台上でオーケストラから別のオーケストラへ移行していくという反復進行がありました。それに対応して音響の定位もオーケストラ毎に変ることで、どこの客席のリスナーでもステージ直前に座って演奏を聴いているようなイメージを持ってもらいたかったのです。まさに、巨大な音の壁となりました。」Neumann & Mueller 社のRudolf Pircと Zuleeg は、音のイメージを舞台中央部から客席後方の両コーナーまで3角形の布を引っ張ったものに例えて、客席全席をカバーすることを考えました。Zuleeg が続けます。「吊り下げられたd&b J-Seriesシステムの左/中/右間のディレイ時間設定に充分注意しました。これをQ-Seriesラウドスピーカーによる複雑なマルチディレイシステムネットワークをマッチングさせることで3角形の中心点である舞台中央からオーケストラ左右にツァラトゥストラ の演奏音と共に効果的に移動させることが出来ました。」 全ての信号の供給と処理は、操作卓で一回A/D変換された後は、d&bのD12でD/A変換を行うだけのデジタル領域で制御しました。この結果、システム全体で120 dBという驚くべきダイナミックレンジとなりました。3X96入力を48出力にルーティングして音響のキャンバスを描きました。